ふむふむ・・・。なるほど・・・。ようし!今日は、この手で行ってみよう!アタックチャンスだ!!(←違う。)


「仁王ー!」

「ん?なんじゃ?」

「今日の数学、当たりそうなんだぁー・・・。だから、教えて?」


そう言って、私は後ろの席の仁王雅治に声をかけた。・・・きっと、返答はわかってる。だからこそ、この作戦で行くんだ。


「自分でやりんしゃい。」

「仁王、得意なんでしょ?教えてよー。」

「・・・そんな難しい問題も無いじゃろ?」

「私には難しいの。」

・・・そんなに頭が悪かったかのう。」

「うぅ・・・。そんな言い方しなくてもいいじゃない!・・・ヒドイ、仁王。」


私はそう言いながら、両手で顔を覆い、俯いた。少し肩を震わすことも忘れない。


「・・・・・・。詐欺師と呼ばれちょる俺を騙そうなんて、まだまだぜよ?」


仁王は、ウソ泣きをしていた私に向かって、そう言い放った。・・・くそ、バレたか。


「早いよー、仁王。一瞬でもいいから、騙されてよー・・・。」

「それは無理な相談じゃ。」

「もう・・・。まぁ、バレるだろうと思ってたけどさー・・・。」


それでも、少しは期待したいじゃない。恋する乙女は、いつでも夢を見たいものなの!


「バレると思っとったのに、なんでそんなことをしたんじゃ?」


仁王にそう言われて、私はとある紙を取り出した。


「だって、ここに書いてあるから。」

「・・・・・・・・・。」


私が取り出したのは、さっきまで読んでいた立海の『攻略マニュアル』だ。そこには、テニス部の人の様々な情報が載っている。・・・もちろん、恋愛事情についても、だ。


「仁王は、泣かせてしまったとき、ときめくんでしょ?だから。」

「だから・・・泣いたと・・・?」

「そう!」


私は勢いよく返事した。そう、私は仁王に恋をしている。でも、仁王の態度は全然わからなくて、日々こうして奮闘しているのだ!すごいぞ、私!頑張れ、私!


「・・・・・・って、なんで呆れた顔してるの?」

「何でもなかよ。」

「あるでしょー?!」

「・・・まぁ、はわかり易いと思ってな。」


わかり易い・・・それは、仁王にとって良いこと?悪いこと?そう考えながら、私は脳内の仁王データを探る(主に、収集源は柳くんや柳生くんだったりする)。・・・・・・仁王のタイプは、駆け引き上手な人・・・・・・ハッ!!ってことは、わかり易いのは駄目なのか?!!


「全然わかり易くないよ!全然!もう、私なんて謎の塊だよ!!」

「・・・・・・たしかに。」


そう言って、仁王は苦笑いしている。・・・何故だ?!でも、とりあえず、駆け引き上手だとは思ってもらえたかな。・・・あれ?それって・・・矛盾があるんだけど。


「ねぇ、仁王って、駆け引き上手な人が好きなんだよねー?ってことは、感情がわからない人の方がいいってことだよねー?」

「ん?・・・まぁ、そうかのう。」

「じゃあさ!こっちのに書いてある、素直な態度に弱いっていうのと矛盾してない??」

「そうでもなかよ。」

「なんで??」

「それは・・・、自分で考えんしゃい。」


って、ほら!また、こうやって仁王ははぐらかすんだ!!うぅ〜ん・・・こうなったら・・・!!
そう思って、私は次の休み時間に、早速A組の教室へ向かった。(もちろん、さっきの授業の数学は難なくこなせたよ!)


「柳生くん!」

「・・・さん。どうしました?」


いつものように、優しい表情で聞いてくれる柳生くんに、私はさっきの出来事を話した。


「――ってことがあったんだけど。柳生くんは、どう思う?」

「・・・・・・仁王くんは、自分で考えろと仰ったのでは?」

「そうなんだけど。難しいから、柳生くんに少しでもヒントを貰えないかなーと思って!ちゃんと、自分では考えるよ。だって、仁王のことだからね!」


好きな人のことは、やっぱり自分でわかりたいもの。でも、仁王は捻くれ者だから、私1人で考えるのは難しい。ってわけで、いつも通り、仁王と仲の良い柳生くんに相談した。


「そうですね・・・。まぁ、仁王くんのことですから、あまりに裏の無い表現をされると、どうしても裏を探ろうとしてしまう・・・、ということでしょうね。」

「・・・・・・なるほど。でも、裏の無い表現には本当に裏が無いから、結局仁王は答えの無い問題に悩んでしまってることになる、・・・って感じ??」

「えぇ、私はそうだと思いますよ。」

「そっか!ありがとう!」

「いいえ。頑張ってくださいね。」

「は〜い!」


柳生くんに笑顔で見送られ、私は教室に帰った。さて、早速答え合わせだ!!


「仁王!」

「なんじゃ?」

「さっきのわかったよ!・・・素直な態度をされても、仁王は裏を考えちゃうから、結局相手が何を考えてるかわからなくて、駆け引き上手な人に見える。・・・正解??」

「・・・まぁ、ほとんど正解じゃな。」

「やったー!」


私は両手を挙げて、素直に喜んだ。・・・あれ?でも、おかしい。


「・・・・・・って、ほとんど??ってことは、ちょっと間違ってるの?」

「そういうことじゃな。」


なんだ・・・。正解じゃなかったのか・・・。でも、ほとんど正解なんだから、それでいいじゃない!


「じゃあ、正しい解答例は?」

「・・・・・・『人に依る』という言葉が要るかのう。」

「なるほどねー。」


ってことは、本当にほとんど正解だったんだね、私。偉い!柳生くんにも、もう1回ちゃんとお礼を言っておこうっと。
でも。『人に依る』っていうのは、例えば、どんな人なんだろう?それが、私にとっては1番重要なことだ。


「その『人に依る』っていうのは、私も入る??」

「・・・・・・そうじゃな。入るよ。」


また仁王は苦笑いをしたけど、今そんなことは気にしない。だって、私も入るんだったら、望みがあるってことだもん!


「ちなみに、それは、どういう人が入れるの?」

「気になる奴、とでも言うんかのう。」


その答えを聞いて、私は少し黙り込んだ。だって・・・・・・それ、やっぱり、矛盾してるよ!


「え?仁王は、駆け引き上手な人がタイプなんでしょ?でも、素直な態度に弱い。ただ、それは気になる人限定。だけど、仁王の気になる人っていうのは、いわゆるタイプな人なわけで、それは駆け引き上手な人であって・・・。あー!もう、訳わかんなくなってきた!!」


私がパニックに陥ってるって言うのに、仁王は呑気に笑っている。


「笑わないでよ・・・!真剣に考えてるのに!」

「いや、悪い、悪い。・・・そっちにツッコミを入れたんか、と思ってな。」


仁王の言葉で、私は更に混乱しそうになる。・・・だって、“そっち”と言うことは、また別の方にもツッコミを入れられたってこと?そんな、たくさんのことを考えることなんて、できないよ!
・・・だけど。さっきも言ったように、好きな人のことは、自分でわかりたい。だから、もう1度落ち着いて考えてみる。


「(私がパニックになったのは、仁王の変な回答を聞いてから。その変な回答っていうのは、『人に依る』の『人』には、どんな人が入るのかっていう質問に対しての「気になる奴」という答え。そこで、私は仁王にツッコミを入れたわけだ。・・・じゃあ、「気になる奴」に対して、もっと別のツッコミが入れられたのか。)」

ー?どっか、別の世界に行っとらんかー?」

「(あぁ、仁王が何か言うから、またわからなくなる・・・!えぇ〜っと・・・、何処まで考えたっけ?)・・・ちょっと、何処まで考えたか、わからなくなっちゃったよ!」


そんな理不尽な文句を言ったにも拘らず、仁王は笑って答えてくれた。


「声に出して、考えた方がいいんじゃないか?」

「・・・そう?えぇ〜っと・・・。じゃあ、最初から。・・・まず、私が仁王にタイプについて聞きました。そして、仁王が答えてくれなかったので、柳生くんに相談しつつ・・・。」

「ちょっと待った。・・・柳生に聞いたのか?」


仁王が少し、低いトーンで聞いた。・・・そうか、しまった!!自分で考えなきゃならなかったんだった!!


「ううん!ちょっとだけ、事情を説明しただけだよ!!答えは、自分で導き出しました!」

「ふ〜ん・・・。そうか。柳生か・・・。」


まだ仁王は納得がいかない、って顔をしていたけど、私は続けることにした。


「で!その答えは、ほとんど正解で、仁王には『人に依る』って言葉が要ると言われました。その人っていうのは、どんな人かっていう質問に対して、仁王は『気になる奴』と答えたので・・・。」

「ちょっと待った。」


えぇ?!また・・・?!!何か、まずいこと言ったっけ・・・??


「何か、忘れちょる。その前に、もう1個質問したじゃろ?」

「・・・・・・あ!そっか!!私も入る?って聞いた!」

「そう。で?他のツッコミは見つかったか?」


あぁ、そうだった。そのために、今考え直してるんだった・・・。それすらも、ちょっと忘れそうになってたよ。
それで、他のツッコミ??・・・・・・あぁ!!!!!


「私=気になる奴?!!!で、でも!気になる奴=タイプの人で・・・。えぇ?!!」


結局、私は困惑してしまって、ただ驚くばかりだった。


「わかってくれたかのう?」

「・・・うん、たぶん。・・・いや、本当??なんか、よくわからなくなってきた・・・。」

「そうじゃな。に遠回しに言うても、わからんじゃろう。・・・俺はのことが好きじゃ。」


たしかに遠回しに言われても、よくわからなかった。だけど、こんなに直接的に言われても、やっぱりよくわからない。だって、好きな人に好きって言われるなんて・・・そんな都合のいい話があっていいもの??


「・・・なんだか、信じられない・・・・・・。」

「そういうことじゃよ。」

「へ?何が・・・?」

「好きな人に好きだっていう態度を見せられても、それは自分の希望だけかもしれんと思う。だから、どんなにが裏の無い行動をしても、俺は疑ってしまうんよ。」


あぁ、なるほど!さすがに、自分でも体験すると、その気持ちがよくわかった。


「OK!理解しました!」

「・・・そうか。で、は?・・・まぁ、聞かんでも、わかっちょるけど。一応、な。」


そういえば、私はまだ言ってなかったっけ?照れくさいけど・・・。


「私も好きです。」

「ん、ありがとうな。」

「いえいえ!こちらこそ、ありがとう!」


私の苦労の甲斐あって、これで晴れて、恋人っていう関係になれるんだ!やった!!
・・・と浮かれきっていたけど。ちょっと待って。やっぱり、おかしいよ。


「仁王は駆け引き上手な人がタイプなんだよね・・・?私を好きになってくれたってことは、私は駆け引き上手に見えたってこと?・・・でも、気になる人の素直な態度が駆け引き上手に見えるってことは・・・先に何か別の理由があって、気になったってこと??」

「まだ、その話しちょるんか。」

「だって、仁王のこと、ちゃんと知りたいもん。」

「・・・じゃ、自分で考えんしゃい。」


もう、結局それなんだから!!・・・でも、私だって、同じかもしれない。
私は謎めいている人が好きで、仁王を好きになったのか。それとも、仁王が好きだから、そんな謎めいている部分も知りたいと思うのか。
要は、鶏が先か卵が先か、なんて話と同じなんだろう。でも、どちらが先にしろ、鶏も卵も存在するし、私は仁王が好きなんだ。それが1番重要なことだよね!


「よし!じゃ、相談に乗ってくれてた柳生くんと柳くんに、早速お礼を言いに・・・。」

「・・・待ちんしゃい。」


勢い良く椅子から立ち上がった私を、仁王は呼び止めた。


「ん?何??」

「・・・・・・もうすぐ、授業が始まるじゃろ。」

「あ、そっか!じゃあ、あとで・・・。」

「俺から言うとくから、は言わんでいい。」

「??でも、ちゃんと、私からお礼を言っておきたいんだけど・・・。」

「こういう時は、俺から言うた方がいいんじゃよ。」

「なんで??」

「・・・さぁな。」


仁王は、すっと視線を外した。・・・もう、相変わらず訳がわかんない!!
でも、これから、もっともっと仁王のことを知ってやるんだから!そうすれば、きっと、もっともっと好きになっちゃうだろうね。













 

40.5巻ネタを書いてみました!同じ立海生の丸井さんの「Persuaded Us」でも、40.5巻のネタがあるんですが、そちらでは柳さんから、丸井さんの情報を貰いました。しかし、実際に40.5巻にある『攻略マニュアル』という名を出してみるのも一興かなと思い、今回は柳さんのデータに頼りませんでした(笑)。

そして、相変わらず、仁王さんの喋り方がわかりません;;
と言うか、むしろ、柳生さんもわかりません・・・!!本当、立海は好きなのに、その辺にかなり苦労します・・・orz
でも、めげずに立海も書いて、練習(?)していきたいと思います♪

('08/04/04)